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金沢地方裁判所 昭和39年(む)189号 判決

被告人 西佳寿三

決  定

(申立人氏名略)

右申立人は道路交通法違反被告事件につき小松簡易裁判所裁判官が昭和三九年一一月六日になした裁判官忌避申立却下の裁判に対し同月九日右裁判の取消を求める旨の準抗告の申立をしたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、本件準抗告の申立の趣旨及び理由は別紙裁判官忌避の申立却下の裁判に対する準抗告申立書、同補充申立書記載のとおりである。

二、右準抗告の当否について按ずるに、申立人西佳寿三に対する道路交通法違反被告事件は、昭和三九年一〇月一七日小松簡易裁判所に起訴され、同裁判所長谷川芳市裁判官はその第一回公判期日を同年一一月六日と指定したこと、右第一回公判期日に先だち、同年一一月一日申立人西において特別弁護人選任許可願を同裁判所へ出したが、同裁判所は同月二日これを却下する旨の裁判をしたこと、次で、同申立人は同月三日に弁護人選任を考慮したいとの理由で、同裁判所へ公判期日変更請求をしたが、同裁判所は同月四日右請求を却下する旨の裁判をしたこと、更に、右第一回公判期日の人定質問の後同人が裁判官忌避の申立をしたのに対し、同裁判官は、右忌避の申立は、訴訟を遅延させる目的のみでなされたことが明らかであるとして、これを却下する旨の裁判をしたことは、それぞれ一件記録によつて明らかである。

三、よつて、本件忌避申立の当否について考えてみるに、準抗告申立人の主張する前記特別弁護人選任許可願却下の件については、これを許可するか否かは該事件の審理にあたる裁判官が、該事件の性質、状況等を検討したうえで決定すべきものであり、その裁判官の自由裁量に属する問題であり、更に弁護人選任を考慮するための公判期日変更請求についても、やむを得ないと認める場合以外は却下しなければならないのであるから(刑訴規則一七九条の四)やむを得ないものであるか否かの認定は当該裁判官の合理的な自由裁量に属する行為である。申立人は右却下の裁判をもつて被告人の弁護人選任権という重要なる権利が侵害され、事件の防禦が全くできないことを強調する。成程被告人にとつては弁護人を選任する権利は刑事裁判において被告人の最大の権利の一つであることは疑いない。しかし、本件は必要的弁護事件ではないこと、被告人としての地位防禦のためには通常の弁護人を選任し得るにも拘らず突如として特別弁護人選任申請をなしたこと、迅速処理を要請される道路交通法違反被告事件において、第一回公判期日まで三日の猶予期間があつたこと等から考えて、原裁判官のなした各却下決定はいづれも相当であつて右主張はあたらない。却つて一件記録並に申立書を精査しても、被告人が前記三日の間に、具体的に弁護人を選任することに努力した経過は全然認められない。かくのごとき自己の過失を黙殺して、自己の防禦権が全うできないとして裁判官忌避の申立をすることは、明らかに忌避権の濫用であるといわなくてはならない。以上原裁判官のなした特別弁護人申請却下決定及び公判期日変更申請却下決定には何ら違法ないし裁量権の濫用は認められず、さらには被告人に対する何らの偏見をも見出すことができず、したがつて申立人に対する前記被告事件について、同裁判官が訴訟遅延のみを目的としたことが明らかであるとして簡易却下した原決定は相当であり、その他不公平な裁判をする虞があるとのことはこれを認めることができないから、これを理由とする本件忌避の申立は理由がないというべく、従つて同裁判官の忌避申立却下の裁判に対する本件準抗告は理由がないものと言わなくてはならない。

よつて刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項により本件準抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 岩崎善四郎 木村幸男 畠山芳治)

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